亜以子vs煌太

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一歩一歩近づいていくと、すぐに後ろから二つの足音が聞こえる。 子犬と子兎が追いかけて来た様子。 ま、いいだろう。 構わずに小さく半開きになっていた副社長室のドアを大きく開けた。 そして、一歩、二歩と進み、その場に止まる。 …わお。こっちもボロボロだ。 「…江川さん。」 その一言で、俺を追っていた足音が止まる。 俺の決意はここからだ。 煌太と亜以子を離しちゃいけない。 そう思いつつ、煌太の将来や様々なことを考えて、俺はなにも言わなかった。 そして煌太も自分で考えて決断した。 しかし、煌太は俺を求めた。 亜以子を求めた。 戻りたいという意思を訴えた。 ならば俺はここで行動する。 このときのために口出ししなかったと思えばいい。 江川輝弥の前、3m。 俺はそこに両膝をついた。 そして両手をつき、最後に頭を床に。 「…血縁関係も後見人にもなっていないただの他人ですが、戯れ言と聞き流さないで聞いていただきたい。 江川さん。 どうか、煌太を返してください。 私と亜以子は煌太を求めています。 そして煌太の気持ちも同じだと見受けます。 お願いします。 私たちから煌太を離さないでください。 …亜以子から煌太を…煌太から亜以子を奪ってはいけないんです。 お願いします。」 …ダッセーな、俺。カッコ悪い。 なんで親父の前で… 好きな女とガキの前でこんなこと… でも、決意は揺らがなかった。 どんなにダサくても、やらなきゃいけないと思った。
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