第二部:秋冬の定まり。 歩みは変わらず・・・5

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だが、木葉刑事は違う。 (ん、・・悪寒がする。 霊魂が何処かに?) 立ちながら気配を探れば、廊下よりその気配が迫ってきている。 そして、里谷刑事と二人の男性刑事が来る。 木田一課長は、事態は把握したと。 「木葉、明日は出張だぞ。 よし、今日は上がれ。 里谷、そっちはどうだった?」 報告を受けるべく、木葉刑事達より里谷刑事達へ相手を変えた木田一課長。 入れ替わる格好で後ろに下がる木葉刑事だが、里谷刑事の真後ろに追い縋る幽霊を視た。 (あっ、被害者の霊…) 展示会場で亡くなった被害者の霊魂が、里谷刑事に掴み掛かる様にし。 『戻ってくれっ、頼むからあの人の元へ戻ってくれ! 殺されるっ、私の様にっ、あの人も同じ男に殺されるっ!!』 と、繰り返すのだ。 然し、幽霊を視ることが出来ない里谷刑事だから、その声すらも聞こえない。 幽霊を視る木葉刑事は、 (‘殺される’? ‘あの人’?) と、幽霊の叫ぶ言葉を反芻すれば。 「一課長、あの松本弁護士について調べて来ましたが。 彼は、全くのシロと思います」 里谷刑事が報告を始めた。 松本弁護士は、都内の北側。 三ノ輪に個人事務所を構える。 基本的に彼の弁護士としてのスタンスは、情に厚い人権派と云う。 民事訴訟や国選弁護を担当し、派でやかな弁護士とは違う生き方をしていると云うことだ。 今回の真江崎に対する弁護も、外部よりたまたま舞い込んだと思われるとか。 里谷刑事の報告を聞く木葉刑事は、幽霊の訴えがじわじわと解りだす。 (‘あの人’は、松本弁護士。 彼が、殺される? つまり・・犯人が適当に弁護を依頼したのが松本弁護士で、もう弁護士を頼る必要が無くなったか、彼を見限ったから殺すってことか?) 幽霊の訴えから、こう推測した木葉刑事。 もし、刑事が松本弁護士の周辺を探り始めたとして、弁護の依頼をした相手が殺人の犯人か、またはその依頼者とした場合。 松本弁護士から何らかの情報が漏れる前に、不利な証拠なり情報を消すことは有り得る。 それが松本弁護士本人ならば、彼を殺すことも有り得るだろう。 (不味い、被害者の霊魂が自分を殺した相手が来ると云うならば、下手すると有賀が来るかも知れない)
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