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然も、未だに窃盗犯の水野へエセの窃盗依頼をした仲間が見つからない。 殺されていたならば尚更に、関係者は危険な情況におかれる。
(ぐっ! 幽霊からの訴えを知った予想の段階で、どうやったら殺人を防げる? どうする、どうする…)
考える木葉刑事だが、悠長な暇は無いと感じて。
報告が終わった里谷刑事の話の間へ入り込む様にし。
「里谷さん」
「何?」
木葉刑事の発言で、刑事や首脳陣が一斉に眼を向ける。
回りの眼を気にしない木葉刑事は、里谷刑事へ皆の前でも問う。
「松本弁護士は、依頼者について何かしら語りましたか?」
「んん。 あの真江崎って女性が本当に詐欺を働いたかどうか、それが判明するまでは弁護士としての規定は守るってサ。 守秘義務を持ち出されたから、今日はすんなり引き下がりました」
疲れたと、面倒くさそうにして見せた里谷刑事。
だが、木葉刑事の表情は厳しく。
「その後、依頼者より電話などは?」
「ないって」
此処で、視線を反らした木葉刑事。 ワザとだが、注意を促す芝居である。
「・・大丈夫か、あの弁護士」
呟く木葉刑事に、小田部刑事が。
「何が、ですかな」
一課長も見ている前で。
「いえ、ね。 仮に、ですが。 あの展示会場の絵が、触れ回っている様な芸術価値の無いモノだとして。 殺された被害者は、恐らくその事実に気付いたか。 若しくは、疑いを持ったから殺されたとする」
「ふむ、矛盾はない流れですな」
「然も、あの元窃盗犯の水野に絵を盗ませる素振りをさせたのは、偽りの窃盗事件を装い水野に殺人の罪を着せるためとすると。 水野に偽りの盗みを持ち掛けた知人も見つからない」
「はい」
「犯人や犯人に近い人物にしてみれば、伊集院署長が記者会見を開いて絵の情報を求めた上。 真江崎さんの身柄が警察に在る今、これ以上の情報の流出を防ぐ手立てを考えると。 一番に進め易い一手は、接点とも云うべき松本弁護士をどうにかすることの様な気が…」
不穏なことを言い出す木葉刑事に、里谷刑事が困り。
「え? あの弁護士さんの口封じでも考えるってこと?」
頷いて見せる木葉刑事は、まだ霊魂の被害者が里谷刑事に縋る姿が視えている。 その必死な姿は、尋常ではなかった。
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