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そんな様子を見ている伊集院署長だが、木田一課長へ顔を寄せると。
「悪くないですね」
「はい?」
「木田さん、この事件は、彼を無くして早期解決は無いと思う」
「木葉刑事、ですか」
「えぇ。 松本弁護士への注意が、空振りだったとしても、これほど細やかに注意を促してくれる刑事が居ることは、非常に有難い」
「ま、有賀の存在も見え隠れしてますからな」
顔を離す伊集院署長は、大きくひとつ頷いて。
「名前が出ただけでも、警察全体が怯える悪魔みたいな有賀ですからね」
「・・・」
伊集院署長の話に、木田一課長は新たに不安を覚えた。
さて、寒い風の吹く夕闇の外へ出る木葉刑事と里谷刑事。
「木葉さん、弁護士サマの所にご案内するわよ」
車に近付く木葉刑事は、いかにも急いでいる。
「里谷さん、早く、早くお願いします」
「はぁ?」
車に乗り込んだ木葉刑事は、幽霊が視える自分の事を知る里谷刑事を相手にするからか。 シートベルトを絞めながら。
「今もそうですが、里谷さんの後ろに、この事件の被害者が訴え掛けてます」
「へぇ~、・・へぇっ?」
びっくりして、後ろや回りをキョロキョロする里谷刑事。
一方の木葉刑事は、助手席より自らエンジンボタンを押すと。
「とにかく、早く。 松本弁護士が、殺されるかも知れない」
殺人の予見で、バッと木葉刑事を見た里谷刑事に、‘刑事’としてのスイッチが入った。
「解ったわっ」
運転する里谷刑事は、木葉刑事より経過を聴いてゆく。 被害者の霊魂が、危機を訴えていて。 木葉刑事は、その意を汲んでどう松本弁護士に近付くかを考え、あんな突拍子もない間合いながらに、突っ込んだ推測をしたのだ。
「ってことは、松本弁護士を狙う犯人が、今回のホンボシよね?」
「間違いないです。 それが、有賀でないことを祈りたいですよ」
「有賀…」
警察の汚点とも云うべき相手に、里谷刑事も臨戦態勢に立つ気合いを入れた。 だが、幽霊の情報だから、サイレンを出して急行する訳も行かない。 幽霊からの情報とは、かくももどかしきものだった。
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