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駆け足の少女
東京に空襲があった日、私は生まれました。
大きな空襲でそこらじゅうが燃えてしまっている中、お母さんは私を道端で出産したのだと言っていました。お父さんもそばにいて、二人で爆弾が降ってくる中で手を焼きながらもなんとか私が産まれたのだと聞かされました。
数ヶ月後、戦争は終わったらしいけれど、貧しい暮らしのなかで私は手のかかる子供だったらしいです。子育てに疲れ果てた両親は、十一歳になった私を遠い親戚に里子に出しました。
なぜ向こうの家族が私を受け入れてくれたのかはわかりません。
ただ、大好きな両親と離れるのはつらかったけれど、どんどんビルや建物が多くなっていく東京にはあまり私の居場所がなかったのも事実でした。
私は、走ることが大好きだったから。
だから田舎の親戚に里子に出されてバスを降りた時、一面の畑やその脇につくられた農道を見て私の心は踊りました。ここなら、いくらでも思い切り駆け回ることが出来ると。
家族と離れ離れになった寂しさを紛らわすように、私は朝から晩まで地平線の向こう側を目指して走り回ったのです。真っ直ぐに伸びた地面の奥に太陽がゆっくりと沈んでいく景色は、とっても綺麗で。
私は東京のことを思い出してはちょっぴり泣いてしまったけれど、その涙さえ鮮やかなオレンジ色に染めてくれるこの村の夕陽が大好きになりました。
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