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だけどある日、ひどい雨が降って、私はずっと物置のなかで過ごさなければいけませんでした。
千絵ちゃんのお母さんの千代子おばさんがやってきたのは、そんなときでした。
「あら、綾子ちゃん。今日はお出かけしないのね」
「は、はい。その、あの……」
私が物置の小さな窓から空を見上げると、千代子おばさんが優しく微笑んでくれました。
「そうよねぇ、いくら綾子ちゃんでもこんな雨のなかを走れないわよね」
「……はい。あの、なにか?」
「やだわ、そんなに身構えないで。あなたもうちの子になったんだから、堂々としていてくれていいのよ」
そういうと千代子おばさんは、懐から赤くてまあるいものを取り出しました。しゃりしゃりと小さな音がする、手のひらに乗るような大きさの毬のようなもの。
「お手玉って言ってね。こうして……」
おばさんは器用に三つのお手玉というものを両手で投げては取り、投げては取りを繰り返します。ひとしきり手品のようにお手玉を披露してくれたおばさんが、にっこり笑って言いました。
「はい、これ。綾子ちゃんにこのお手玉あげるわ」
「えっ、でも……」
「いいのよ。あなただってうちの子ですもの。私はこのおうちではあなたのお母さんよ。お母さんのプレゼント、受け取ってね」
そういって私の胸元にそっとお手玉を置くと、ふふっと笑っておばさんは物置を出ていきました。残された私はお手玉にそっと触れてみましたが、おばさんのように上手に扱うことは出来ませんでした。
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