駆け足の少女

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 こっちの家に来て一年が経ったころ、千絵ちゃんが珍しく私を遊びに誘いました。 「お母さんが仲良くしなさいっていうから、仕方なくよ」  そういって連れ出された場所は村の空き地で、そこには数人の子供たちがいました。 「綾子、今日はあなたがこっちに来て一年でしょ。だから私たちもあなたを仲間に入れてあげる」 「えっ、本当に?」 「もちろん。これ、私たちの仲間入りの証。プレゼントよ」  そういうと千絵ちゃんは白い布で私に目隠しをしました。 「きゃあ!? 千絵ちゃんやめて! 何をするの!?」 「鬼ごっこよ、知らないの? 今日は綾子が主役だから、綾子が鬼ね」 「鬼ごっこって、そんな……。なんにも見えない、無理だよ」  不安げに数歩踏み出した私の背中に何かがぶつかりました。倒れこむ私をはやしたてるように声がしました。「鬼さんこちら、手のなるほうへ」手拍子とともに歌声が聞こえます。どんなにその音のほうに向かって行っても、私は何も見ることができません。 「なんにも見えない! 怖いよぉ!」 「ほらほら、誰かを捕まえれば交代よ。しっかりしなさい綾子」 「だけど……あっ!?」  私は声をたよりに必死に子供たちの姿を探しました。けれど、なんとか身体に触れることができたって、相手はするりと身をかわしてしまいます。私には捕まえることなど到底出来やしないのです。 「ほらほら綾子、こっちだよ。えい!」 「きゃああ!」  千絵ちゃんの声がして、背中を強く押されました。頭から転げてしまった私の顔から目隠しが外れ、視界がひらけました。そこには、私を見下ろして冷たい笑みを浮かべている子供たちの姿がありました。 「あーあ、目隠しがとれちゃった。綾子、続きをしましょ」 「いや、いや! もうやめて!」  背筋がぶるりと震えました。白い手ぬぐいを持って近づいてきた千絵ちゃんから逃げるようにして、私は思い切り駆け出します。「待ちなさい!」後ろから声と足音が追ってきます。私は必死に逃げました。
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