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ワン・ストーリー
六月も半ばなのに、鮮やかに晴れた空を眺めて、僕は思わずため息をついた。
そのため息が聞こえたのか、ママが顔を上げ、一瞬だけ僕を見たけど、すぐにまたリビングの雑巾がけを始めた。
――お散歩に行きたいなぁ…。
青空を見ていたら、体がウズウズしてきた。たくさんの空気を吸って、草の上を思いっきり走り回りたい。
だけど、いつも僕を喜んで連れ出してくれる爽ちゃんはいない。今は保育園で、お友達と遊んでるんだろうな。パパもお仕事だし、ママも掃除や洗濯で忙しそう。
僕は一つ欠伸をした。
僕は、シーズーの「マメ」、一才のオスです。白と茶色の混じった短い毛が、僕は自分で気に入ってるんだ。
爽ちゃんはよくその毛並みを撫でてくれます。爽ちゃんというのは、僕の飼い主。捨てられていた僕を、爽ちゃんのパパが拾ってくれて、僕はこの家の一員になった訳。
うん、でも暇なんだ。こんなにいいお天気なんだから、お散歩に行きたいよー。
僕は日の差すフローリングの床にごろんと横になった。
その時、少しだけ開いてるガラス戸が目に入った。そこから庭に出る事が出来るんだけど。僕は小型犬で、子供だから、まだまだ身体も小さい。そんな僕がギリギリ通れそうなほど、戸が少しだけ開いていたんだ。
これは外に出ておいで、って誘惑してるとしか思えないよね?
僕はママをちらりと見る。ママは雑巾を洗っていた。誘惑に負けて、えいっと庭に出てみる。またママの方を見たけど、僕が外に出たのには気付いてない。僕は足音を立てないように歩いて、家を出た。
――うわぁ、初めてひとりで出てきちゃった!
僕は胸が高鳴って、仕方がなかった。
――よし!冒険だ!
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