ワン・ストーリー

1/15
前へ
/15ページ
次へ

ワン・ストーリー

 六月も半ばなのに、鮮やかに晴れた空を眺めて、僕は思わずため息をついた。  そのため息が聞こえたのか、ママが顔を上げ、一瞬だけ僕を見たけど、すぐにまたリビングの雑巾がけを始めた。  ――お散歩に行きたいなぁ…。  青空を見ていたら、体がウズウズしてきた。たくさんの空気を吸って、草の上を思いっきり走り回りたい。  だけど、いつも僕を喜んで連れ出してくれる爽ちゃんはいない。今は保育園で、お友達と遊んでるんだろうな。パパもお仕事だし、ママも掃除や洗濯で忙しそう。  僕は一つ欠伸をした。  僕は、シーズーの「マメ」、一才のオスです。白と茶色の混じった短い毛が、僕は自分で気に入ってるんだ。  爽ちゃんはよくその毛並みを撫でてくれます。爽ちゃんというのは、僕の飼い主。捨てられていた僕を、爽ちゃんのパパが拾ってくれて、僕はこの家の一員になった訳。  うん、でも暇なんだ。こんなにいいお天気なんだから、お散歩に行きたいよー。  僕は日の差すフローリングの床にごろんと横になった。  その時、少しだけ開いてるガラス戸が目に入った。そこから庭に出る事が出来るんだけど。僕は小型犬で、子供だから、まだまだ身体も小さい。そんな僕がギリギリ通れそうなほど、戸が少しだけ開いていたんだ。 これは外に出ておいで、って誘惑してるとしか思えないよね?  僕はママをちらりと見る。ママは雑巾を洗っていた。誘惑に負けて、えいっと庭に出てみる。またママの方を見たけど、僕が外に出たのには気付いてない。僕は足音を立てないように歩いて、家を出た。  ――うわぁ、初めてひとりで出てきちゃった!  僕は胸が高鳴って、仕方がなかった。  ――よし!冒険だ!
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加