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私、ビンス・テイラーは26歳の時に医師免許を取得。その後、4年の精神科レジデンシーを終え、認定試験にも一発合格。
晴れて精神科医になり、40歳になる今年まで平穏無事に暮らしてきたのだが、それとは打ってかわり、私は今留置所にいる──といっても、私が留置されているわけではなく、容疑者の精神鑑定をおこなってほしいと警察に依頼されたので、ここまで足を運んだ次第である。
とはいえ、犯罪者の──いや、容疑者の精神鑑定などは初体験で、かなり緊張していた。私の診断次第で罪の重さが変わってしまうというのだから、責任重大である。額からは汗がほとばしっていた。
「お願いしますDr.テイラー」
刑事のエイドリアン・アボットが会釈してきたので「どうも」と私も小さくお辞儀した。
取り調べ室のような場所に連れられると、そこには容疑者の男──風采的には、私と同じくらいの年齢にみえる男──が既に席についていた。周りには何人かの警官がいる。
──罪状は無差別殺人らしい。
男と対面してから、私の心臓が激しく動機してるのが自分でもわかった。精神科医が自分の精神状況もコントロール出来ないとは、なんとも情けない。
緊張を落ち着かせるために、白いテーブルの上に置かれていたコップの水を、少し飲んだ。しかし、コップが透明なせいで、向かいに座ってる容疑者と目が合う。これじゃあ逆効果だ。手は更に震える。
私は咳払いして、少しうわずった声で話始めた。
「えー、名前はなんだったかな。たしか──」
「マシャドバ」と容疑者の男。
「マシャドバ?」
私はおうむ返しに聞く。
その質問には、私の後方にいたエイドリアン刑事が答えた。
「こいつ、本名を名乗らないんですよ」
「本名だ」
マシャドバは敵意を込めてエイドリアンを睨み付ける。エイドリアンは「ね?」と、口には出さずに私に目配せをした。
確かに“マシャドバ”なんてふざけた名前は、他国でも聞いたことがない。偽名であるか、本名だと思い込んでいる可能性が高いであろう。だとするとこのマシャドバという男は“統合失調症(精神分裂病)”である可能性も出てくるな。
ふむ、と頷き、私は問診用の紙の横においた真っ白な用紙に、メモを取った。
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