魔法使いの男

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「マシャドバ君は何故人を殺したのかな?」  私は敢えて偽名を受け入れた上で尋ねた。  その質問が感に触れたのか、マシャドバは声高に反論してきた。 「人を殺したつもりなどない。魔王の手先と戦闘していたら、気づけば前に人が死んでいた」 「ほう?魔王?」  「私は魔法使いだ」   なるほど、こいつは妄想型の分裂病だ。もしくは、それを装って罪を逃れようとしている犯罪者か。  そして、それを看破する事が私の責務なのだ。この嘘つきゲームを制しなければ、犯罪者をのさばらせることになる。  今までの罹患者は真実を述べるがこいつは違う──それを理解した途端に、今の私にのしかかってる責任の重さと、課題の大きさによる不安感が、私の重量覚を大きく刺激した気がした。 「マシャドバ君はテレビゲームが好きかい?」  “魔王”や“魔法使い”というワードに着目した質問である。もし彼が精神病であれば、テレビゲームの中の世界と、現実世界を混沌としているケースが考えられる。 「テレビゲーム?」 「テレビに繋げて遊ぶ機械だよ。コントローラーなんかを使ってね。まぁ、ゲームであれば携帯用なんかでもいいけど、やってないのかい?」 「そんなものは知らない」  知らない?そんなことはあり得るだろうか?  私はゲームを買い与えられた事がなく、ずっと本ばかり読んでいた少年期を過ごしたが、ゲームという存在自体は知っていた。  この男は言語障害によってゲームを別のものと勘違いしているのだろうか?はたまた、生活環境により知ることが出来なかったのか。  そうだと仮定するなら、その生活環境がこの男の精神に影響を及ぼしてるのだろう。よほどの閉鎖環境でなければ、ゲームを知らないなんて事はあり得ない筈だ。 ──もしくは精神病のフリをするための嘘か。  厄介だ。厄介すぎる。どんなロジックで組み立てても、“嘘かもしれない”という仮定は全てに当てはまる。私はもう少し、その面も勉強してからこの依頼を受けるべきだったな。  いや、後悔しても仕方がない。なんとしてでもやりとげなくては。他の精神科医はどうやって真実をかぎ分けてるんだろうか?  私が次の質問をする前に、マシャドバの方から口を開いた。
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