10人が本棚に入れています
本棚に追加
「マシャドバ君は何故人を殺したのかな?」
私は敢えて偽名を受け入れた上で尋ねた。
その質問が感に触れたのか、マシャドバは声高に反論してきた。
「人を殺したつもりなどない。魔王の手先と戦闘していたら、気づけば前に人が死んでいた」
「ほう?魔王?」
「私は魔法使いだ」
なるほど、こいつは妄想型の分裂病だ。もしくは、それを装って罪を逃れようとしている犯罪者か。
そして、それを看破する事が私の責務なのだ。この嘘つきゲームを制しなければ、犯罪者をのさばらせることになる。
今までの罹患者は真実を述べるがこいつは違う──それを理解した途端に、今の私にのしかかってる責任の重さと、課題の大きさによる不安感が、私の重量覚を大きく刺激した気がした。
「マシャドバ君はテレビゲームが好きかい?」
“魔王”や“魔法使い”というワードに着目した質問である。もし彼が精神病であれば、テレビゲームの中の世界と、現実世界を混沌としているケースが考えられる。
「テレビゲーム?」
「テレビに繋げて遊ぶ機械だよ。コントローラーなんかを使ってね。まぁ、ゲームであれば携帯用なんかでもいいけど、やってないのかい?」
「そんなものは知らない」
知らない?そんなことはあり得るだろうか?
私はゲームを買い与えられた事がなく、ずっと本ばかり読んでいた少年期を過ごしたが、ゲームという存在自体は知っていた。
この男は言語障害によってゲームを別のものと勘違いしているのだろうか?はたまた、生活環境により知ることが出来なかったのか。
そうだと仮定するなら、その生活環境がこの男の精神に影響を及ぼしてるのだろう。よほどの閉鎖環境でなければ、ゲームを知らないなんて事はあり得ない筈だ。
──もしくは精神病のフリをするための嘘か。
厄介だ。厄介すぎる。どんなロジックで組み立てても、“嘘かもしれない”という仮定は全てに当てはまる。私はもう少し、その面も勉強してからこの依頼を受けるべきだったな。
いや、後悔しても仕方がない。なんとしてでもやりとげなくては。他の精神科医はどうやって真実をかぎ分けてるんだろうか?
私が次の質問をする前に、マシャドバの方から口を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!