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「Dr. テイラーといったかね?貴方の質問には、私の話が嘘だという前提があるように感じる」
「なぜそのように?」
逆に話しかけられるとは想定していなかったせいか、一瞬心臓が止まった気がした。
「魔王の手下が、人間の死体に化けて、私を陥れようとしている可能性を全く考えていないからだ」
マシャドバの声音は、憤然とした態度がハッキリと表れていた。
「私の見解では、マシャドバ君は精神病の可能性が高いからね」
私は噛んで含めるように、なるべく優しい口調で言葉を続けた。
「この世界には魔王なんてのはいないし、魔法なんて物も存在はしない。だがもし、マシャドバ君にそういった物が本当に見えているのだとすれば、それは妄想だよ」
これは賭けだ。実際に、病気であるという事実をハッキリ述べて相手に分からせるというのは治療法としてあるし、それに対する彼の反応で、真偽を見破れるかもしれない。だが失敗すれば信用を失い、相手が黙秘してしまう事も考えられる。
「貴様、魔法すらも信じていないのか?」
──想定外の反応。精神病である事実より、“魔法の存在”の方に引っかかるとは。
だが、その反応は彼が本当に魔法を信じているという根拠になり得る。
こいつは妄想型の統合失調病だ。間違いない。
精神病を偽っている者が、ノータイムでこの返答を導きだせるとは考えづらい。
「魔法というものがあるなら見てみたいがね、君が証明できないかぎり、精神病だと仮定せざるを──」
「魔法を見せればいいのか?」
......なに?
「良いだろう。本当は魔力は節約せねばならないのだが、特別に見せてやる」
忽然として、マシャドバから、サイケデリックな形状のオーラが、あふれだした。
目の前が、とつぜん、朦朧としはじめた。
しこうが、ぐらぐらと、ゆれている、のを、かんじる。なにが、おきた?
せかいが、目の前の、風景たちが、えんぴつの先端をもって、上下したときみたく、ゆらゆら、ゆらゆら、波うってる。
えいどりあんけいじの頭部は、水をいれすぎた水風船のように、はじけとんだ!
見えてる色が、全て、マシャドバに吸い込まれ、あらたに、せかいが、誕生した。
マシャドバ、君は、神か?
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