魔法使いの男

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 草原。見渡す限り緑の草原。そして、遠くには暗雲に包まれた城が見える。私は何故かその城が、魔王の城であると理解した。──まるで前からそれを知っていたかのように。  私がおぼつかない足取りで歩き始めると、草むらの中から、小さな黒い点がいくつも浮き上がってきて、私を取り囲んだ。  そして黒い点は、徐々に膨らんでいき、視界を覆うほど大きくなったかと思えば、ぎゅっと握られた粘土のように形を変形させ、やがて鋭い牙と爪を持った、魔獣のようなものに変貌した。  魔獣はジリジリと私に近づいてくる。襲われるのを察した私は、足がすくみ逃げ出すこともままならなかった。  魔獣は地面を勢いよく蹴りあげ、私との距離を一気に詰めた──鋭い爪が私に向かって降り下ろされる。──その間隙を縫って、マシャドバが魔獣の真上に突如現れる。マシャドバが手をかざすと、魔獣は光に包まれて滅失した。  あと一歩、すんでのところで、私はマシャドバに救われたのだ。彼はやはり救世主だ。  魔王を倒すべく、選ばれし者──勇者の仲間としてこの世界の歴史に名を刻む者。  彼は私にとっての神だ。私に真実を啓示してくれ、更に救いの手を差しのべてくださった。  こんな自分の身一つ守れない愚者にですら、マシャドバ様は愛をお与えになられたのだ!なんたる幸福!   あぁ、マシャドバ様。私めは永久に貴方を崇めます。その崇拝心は世代を越え、未来永劫と継承されていく事でしょう──  そして......あなたは......伝説と............
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