5/9
前へ
/9ページ
次へ
「更級太夫どす。よろしゅうお頼もうします。」 太夫という、島原で最高位の遊女になっても振袖太夫だった頃の様に『花珠』は、慎み深かった。 更級太夫の旦那、鷹司彦麿はゆるゆる扇を揺らし、 「太夫、今日は麿の友を連れてきたえ…」 更級太夫が顔を上げると、じーっ と自分を見つめる若者が…いた。 「天女の様なお方や…」 若者は、いかにも没落した公家、という風情だったが、美しい青年だった。 「小野菊基いう、下級の貴族なんやけど、奥ゆかしい者でなぁ…更級、あんさんに逢わせたくて連れて来たんや。」 来ている指貫が高価でない分、菊基の若々しい美丈夫ぶりが際立って見える。 「鷹司の旦那はん。菊基はんの為に一さし、舞わせて頂いてよろしゅおわしますか?」 更級太夫は、鷹司彦麿に尋ねた。 鷹司は、扇を パチン と鳴らした。 更級太夫は「よい」と解釈し、 地方の演奏に合わせて、ひらり と、舞い始めた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加