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「更級太夫どす。よろしゅうお頼もうします。」
太夫という、島原で最高位の遊女になっても振袖太夫だった頃の様に『花珠』は、慎み深かった。
更級太夫の旦那、鷹司彦麿はゆるゆる扇を揺らし、
「太夫、今日は麿の友を連れてきたえ…」
更級太夫が顔を上げると、じーっ と自分を見つめる若者が…いた。
「天女の様なお方や…」
若者は、いかにも没落した公家、という風情だったが、美しい青年だった。
「小野菊基いう、下級の貴族なんやけど、奥ゆかしい者でなぁ…更級、あんさんに逢わせたくて連れて来たんや。」
来ている指貫が高価でない分、菊基の若々しい美丈夫ぶりが際立って見える。
「鷹司の旦那はん。菊基はんの為に一さし、舞わせて頂いてよろしゅおわしますか?」
更級太夫は、鷹司彦麿に尋ねた。
鷹司は、扇を
パチン
と鳴らした。
更級太夫は「よい」と解釈し、
地方の演奏に合わせて、ひらり
と、舞い始めた。
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