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まさか勇司をきっかけに糸川と打ち解けられるとは予想もしていなかったが、相手が足を崩した頃を見計らって、数枚の写真を座卓の天板に並べる。
「もしかして、糸川さんはこの人物はご存知なのではないかと思いまして」
埠頭の駐車場で宗岡龍之介と会っていた人物を、諒は追跡しきれずにいた。
あの日、都内の繁華街に差し掛かったあたりで、警察が交通事故の現場処理にあたっていて、対象車両を追い切れず、そのまま見失ってしまった。急遽、追跡することになった対象なので、尾行車も二台態勢にすることができず準備不足だったのだが、諒としてみれば痛恨のミスだった。
青い車両が向かった方面や、運転手のドレスアップの雰囲気を考えると、水商売関係者ではないかと目星をつけて探してみたが、今のところ見つかっていない。
宗岡と十年以上の付き合いがある糸川なら、知っている可能性があると、仕事の昼休みに呼び出したのだ。
「……アリア……さん?」
かな?と、顔がうまく写っていない写真の角度を変えながら見ている。やはり、宗岡関係の人付き合いを糸川はよく知っている、そう確信して、質問を続けようとした。
「風で髪やショールのようなものが絡みついていて、顔が見えにくいですが、何となくアリアさんという方に似ている気がします。ただ、私のような者にとって、非常に近寄りがたい方で、お話したことは一度もありません」
しかし、伝説の方なので、この業界では知らない人はいないかと、と諒が尋ねる前に多弁に説明してくれる。
「では、そのアリアさんは宗岡龍之介とはどういう関係なのですか?」
「え?アリアさんと宗岡さんは知り合いなのですか?」
「…………糸川さんはアリアさんをどういった繋がりでご存知になったのですか?」
「……えーっと、その、……私の趣味関係の合同パーティーに現れる……方で」
「あ、そっちですか?」
(もう一度、先入観を取り払って洗い直しだな)
糸川と別れた後、諒は勇司を呼び出すため、スマートフォンを取り出した。
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