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SCHEME 2 第6章
すっかり使い慣れてしまった台所で、儀暁はシロップを混ぜた寒天液を型に流し込んだ。成人した男が男のためにデザートまで作るのはさすがに痛いだろうか。
「やっぱ、キモいよな……。いや、勇司君が遊びに来るんだし、最悪自分のために作ったということにすれば……」
儀暁はやっぱりカレーだけにすればよかったかなと、独り言を続けた。
今朝、夕飯は一緒に食べられないと絹江に伝えると、「あら?お友達とごはん?」と快く承諾してくれた。正直、初めて食事に誘われた相手なので、友達と言ってもいいのか分からなかったが、とりあえず頷いておいた。
勇司から「夕飯でも一緒に食わない?家に行ってもいい?」と連絡が来たときは少し驚いた。「おいしいもの、買ってくから」と畳み掛けられたら断ることもできず、話をしている内に、結局儀暁の方が何か作って招待することになってしまった。
さんざんアルバイトをしてきた儀暁にとって、料理は苦ではなかったのだが、メニューに少し悩んだ。できれば夜遅くに帰ってくる諒に作り置きできるものがよかった。
拒絶した日から諒とはまともに会えていない。儀暁のいない時間帯や寝ている時に、彼が帰ってきている形跡はあるが、連日調査で留守にしているのだ。
会っていなくても手紙と生活費がテーブルの上に置かれているので、この部屋から出て行けということではなさそうだが、置手紙で下に住む老夫婦と食事を済ませるように指示されると、自分たちの間には蟠りがあることを再認識してしまう。
彼が帰ってきた時に食事をとれるよう、作り置きしようかと何度も考えたが、
(なんか、いかにもって感じで……。しかも食べたくないのに作り置きされても……)
と、躊躇し、今回は来客を言い訳に「いかにも」という印象を与えないカレーライスを用意しておくことにしたのだ。
「……うっわぁ、このカレー、野菜たっぷりなのも諒の健康とか考えちゃってるわけ?」
おいしいと言って、お代わりしてくれるのはいいのだが、勇司の目敏さが恨めしかった。
「そういうわけじゃ……」
向かい合って座る儀暁はいったんスプーンを置いて、冷たい麦茶で喉を潤した。
(これは、寒天ゼリーは出せないな)
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