SCHEME 2 第6章

1/5
前へ
/57ページ
次へ

SCHEME 2 第6章

 すっかり使い慣れてしまった台所で、儀暁はシロップを混ぜた寒天液を型に流し込んだ。成人した男が男のためにデザートまで作るのはさすがに痛いだろうか。 「やっぱ、キモいよな……。いや、勇司君が遊びに来るんだし、最悪自分のために作ったということにすれば……」  儀暁はやっぱりカレーだけにすればよかったかなと、独り言を続けた。  今朝、夕飯は一緒に食べられないと絹江に伝えると、「あら?お友達とごはん?」と快く承諾してくれた。正直、初めて食事に誘われた相手なので、友達と言ってもいいのか分からなかったが、とりあえず(うなず)いておいた。  勇司から「夕飯でも一緒に食わない?家に行ってもいい?」と連絡が来たときは少し驚いた。「おいしいもの、買ってくから」と(たた)()けられたら断ることもできず、話をしている内に、結局儀暁の方が何か作って招待することになってしまった。  さんざんアルバイトをしてきた儀暁にとって、料理は()ではなかったのだが、メニューに少し悩んだ。できれば夜遅くに帰ってくる諒に作り置きできるものがよかった。  拒絶した日から諒とはまともに会えていない。儀暁のいない時間帯や寝ている時に、彼が帰ってきている形跡はあるが、連日調査で留守にしているのだ。  会っていなくても手紙と生活費がテーブルの上に置かれているので、この部屋から出て行けということではなさそうだが、置手紙で下に住む老夫婦と食事を済ませるように指示されると、自分たちの間には(わだかま)りがあることを再認識してしまう。  彼が帰ってきた時に食事をとれるよう、作り置きしようかと何度も考えたが、 (なんか、いかにもって感じで……。しかも食べたくないのに作り置きされても……)  と、躊躇(ちゅうちょ)し、今回は来客を言い訳に「いかにも」という印象を与えないカレーライスを用意しておくことにしたのだ。 「……うっわぁ、このカレー、野菜たっぷりなのも諒の健康とか考えちゃってるわけ?」  おいしいと言って、お代わりしてくれるのはいいのだが、勇司の目敏(めざと)さが恨めしかった。 「そういうわけじゃ……」  向かい合って座る儀暁はいったんスプーンを置いて、冷たい麦茶で喉を潤した。 (これは、寒天ゼリーは出せないな)
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加