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「諒さん、最近忙しいから、家で食べないし……」
すごい勢いでスプーンを動かす勇司に、ぼそぼそと言い訳してみるが、聞いている素振りはなかった。
「あー、うまかった!オレの方が先に食べたって知ったら、諒、怒るだろうなー」
麦茶もお代わりもらうね、と勇司が席を立ったので、儀暁は「あ、俺がやる」と止めた。が、もうすでに遅く先に席を立った男は冷蔵庫を開けてしまっていた。
「あれ?このうまそうなの、なに?」
「それは、……缶詰が安かったから、簡単にできる、デザートでも、と……」
勇司は冷蔵庫の扉を閉めるのも、開いた口を閉めるのも忘れて、ばつが悪そうにしている儀暁を、じっと見つめた。
「なんだ、そりゃ。諒ばっか、なんでそんなモテんの?いくら付き合い初めって言っても、甘々すぎだろ。帰ってきたらカレシがデザートまで作って待ってるとか」
一度、痛い目見ればいいのに、と不貞腐れてみせる。
「いや、違う、違う。付き合ってないし。全然口も利いてないし。その、俺の子供の頃からの憧れっていうか、片思いっていうか、そういうのが空回って、……この前突き飛ばしてしまって、それから会えてない」
「痴話ゲンカ中ってことか?」
勇司は胡散臭そうに口を歪ませた。
「痴話でも、喧嘩でも、ないと思う……この前、勇司君がケガ人を連れてきた夜があっただろ?その時、ちょっとすれ違ってしまって……いや、本当はもっと前からなのかもしれない」
儀暁は目の前の男に語りかけているようで、そうでもないような態度をとってしまう。
「その話、面白そうだから、もとい、大変そうだから、聞いたげる」
けど、とまだおさまらぬ腹の虫がいるようで
「このデザート、一個、食べていい?」
と、冷蔵庫の中で五つ並んでいる小さなガラスの器を指した。
「もちろん。勇司君の分もあるから」
食べて、と慌てて準備することとなった。
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