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結局、話を聞いてくれると言った男は、寒天ゼリーも二つ平らげ、食後に出したミルクティーにも満足したようだった。意外にも聞き上手で、食べることにも手を抜かないのに、相手に語らせる技術も巧みだった。相談事を打ち明けるのが不得手な儀暁も、凝り固まった胸の内をポロポロと言葉にして落としていく。
「なるほど。それで、諒はあの夜あんなに不機嫌だったんだな。急にケガ人を連れてったぐらいで怒りすぎだって思ったんだ」
「それは、たぶん、俺が諒さんのタイミングみたいなのに合わせられてないっていうか」
「いや、いや。とにかく諒は儀暁君のこととなると、マジなんだよ。リカルドの時もキレ方やばかっただろ?」
勇司の言葉に、憤怒を湛えた諒の双眸を思い出し、あの怖い男の歩む道に飛び込む覚悟をした、あの日へと儀暁の意識は戻された。
「あん時、儀暁君がリカルドとスピカから出てきて、そのままホテルの方に向かっているけど、いいの?って、オレが諒に連絡したんだよ。連絡してやったオレの方が殺されるかと思ったんだから、まぁリカルドの命はないなって」
勇司は苦々しく笑った。
不意に、笑っていた男がミルクティーのマグカップを置く。
「……諒のこと、好きなのか?」
唐突に真面目な面持ちで問われた。
「もし、本気で儀暁君が逃げたいんなら、逃がしてあげようか?」
先ほどまでの茶化すような色が削ぎ落とされてしまい、急に問題の中核を成すものを突き付けられた。
「……子供の頃に持っていた気持ちと、今の気持ちが綯い交ぜになって、今は混乱しているんだと思う。勢いで諒さんと一緒にいると覚悟してしまったけど、俺自身が何となく諒さんを掴めないでいる気がしてならない」
突き付けてくれた核心から目を逸らさぬよう、慎重に自分の深淵を探る。
「諒さんの思い出はもうすでに俺の身体の一部になってしまっていて、今の諒さんとは乖離したものなんだと思う。そもそも子供の頃、諒さんは俺にとって遠い存在で、あまり話したことすらなかった。だから、諒さんへの思いは、……その、蓮さんと監禁されて、初めてリアルに蘇ったっていうか」
言い澱んだ儀暁を勇司は案じるような眼差しで見返した。おそらく勇司は儀暁が蓮に犯されていたことに感づいているのだろう。
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