SCHEME 2 第6章

5/5
前へ
/57ページ
次へ
「自分に起こったことをしっかり意識的に見ないと、ずっとこのまま頭の中が散らかったままだと思う。だから、振り返る努力はしたい」  (うつむ)き加減の男を見据えて、儀暁ははっきりと伝える。 「前に、俺は人を信じすぎるって勇司君に言われたことがあるけど、蓮が俺に()いた嘘には別の意味が含まれている気がしてならない」  語られた()()ちは事実と異なっていたが、その作られた物語の中に蓮の真意の欠片(かけら)があるのではないか、そう告げる儀暁の言葉を、勇司は(おもて)を上げて双眸で受け止める。 「……蓮の母親、もう一度洗い直してみるか」  勇司ははたと思い立ったように(つぶや)いた。 「俺も手伝っていいか?蓮がなぜ母親の話をしなかったのか、前から気になっていた。俺を懐柔(かいじゅう)することだけが目的なら、俺と母親の関係を利用することだってできたはず」  現に、かつて儀暁を(だま)して借金を(こしら)えさせた女は、母親思いの男の感情を食い物にしたのだ。 「……それって、オレ、また諒に怒られるパターンじゃないかな」  長く溜息を吐いた勇司だったが、儀暁の真っ直ぐで揺るがない眼差しに、観念したようで、 「ムリだけはしないでよ。君が壊れたら意味がない」  と、眉尻を下げた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加