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「自分に起こったことをしっかり意識的に見ないと、ずっとこのまま頭の中が散らかったままだと思う。だから、振り返る努力はしたい」
俯き加減の男を見据えて、儀暁ははっきりと伝える。
「前に、俺は人を信じすぎるって勇司君に言われたことがあるけど、蓮が俺に吐いた嘘には別の意味が含まれている気がしてならない」
語られた生い立ちは事実と異なっていたが、その作られた物語の中に蓮の真意の欠片があるのではないか、そう告げる儀暁の言葉を、勇司は面を上げて双眸で受け止める。
「……蓮の母親、もう一度洗い直してみるか」
勇司ははたと思い立ったように呟いた。
「俺も手伝っていいか?蓮がなぜ母親の話をしなかったのか、前から気になっていた。俺を懐柔することだけが目的なら、俺と母親の関係を利用することだってできたはず」
現に、かつて儀暁を騙して借金を拵えさせた女は、母親思いの男の感情を食い物にしたのだ。
「……それって、オレ、また諒に怒られるパターンじゃないかな」
長く溜息を吐いた勇司だったが、儀暁の真っ直ぐで揺るがない眼差しに、観念したようで、
「ムリだけはしないでよ。君が壊れたら意味がない」
と、眉尻を下げた。
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