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SCHEME 2 第8章
曇のない鮮やかなブルーのボンネットは、街路樹とグレーの低層ビルをくっきりと映し出す。このスポーツカーと再び出会えたのは幸運だった。幸運と言っても、純粋な偶然ではなく、アリアという人物を草の根を分けて捜すように調べ、この暴力団下部組織に辿り着いたのだ。それほどにアリアの情報は少なかった。糸川の言う「業界で有名」なわりに、ミステリアスな存在であるらしく、そのことが追跡の道を阻んだ。
アリアと関わりのある組織は、都内のオフィスビル風情の建物を拠点とし、麻薬取引の末端を担っているらしい。ビルの敷地内に件の車両は停められ、諒と勇司はその持ち主が現れるのを待っていた。もちろん、大っぴらに待つわけにはいかない。建物の出口と駐車場が映るよう、隠しカメラを別の建物に設置し、その映像を受信しながら車で待機していた。
つい先日、思いがけず、その男の口からアリアの名前が出てきて、諒は治療の手を止めそうになった。妙な男に懐かれてしまったと思っていたが、他に行く病院のない患者に好かれることは間々ある。チンピラ業にも色々と苦労があるらしく、治療時間中に打ち明けてくる愚痴はうまく受け流していた。
「いつもアニキとオレはうまく仕事してきたんすよ。あの日だって金さえそろってりゃあ、ちゃんとやれた」
雨の日に勇司が担ぎ込んだ男たちは結局病院には行かず、諒の元へ治療に通っていた。「アニキ」と呼ばれる中年男の方は大した怪我ではなかったので、ひびの薬局に顔を出すことはほとんどなかったが、若い男の方は「オレの命を救った人」と諒を慕い、手術後の傷を見せに時々訪れていた。実際には命に係わるほどの負傷ではなかったのだが。
「で、悔しかったんで、オレら、調べたんすよ」
縫合痕を消毒してもらいながら、男は急に声を下げた。
「オレらが事務所に『金が入っていなかった』って文句言いに行ったときは、『金なしでブツを手に入れてくるのが仕事だ』とか言っちゃって、追い返したくせに、実は上のヤツらも金が入っていなかったこと、知らなかったんすよ!アリアってヤツに電話して『どういうことでしょうか?』って言ってんの、オレ、聞いちまったんすよ!」
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