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パラリーガル 第4章
中松の話の胡散臭さに細心の注意を払い、不都合があったらすぐに辞めようと思いながら、この法律事務所で二ヶ月間を過ごしてきた。だが、薄っすらと分かってきたことは、自分より五歳も年上の弁護士が恐ろしくお人よしだということだ。
中松の提言で最も疑わしさを帯びるのは、そんなに都合の良い職場があるのだろうかという点であった。中松が筧口に目を付けたことはむしろ腑に落ちていた。素性が分かっていて、短期間の採用を好都合だと考えてくれる人間を探していたのだろう。些か疑問が残ったのはその法律事務所の方だった。
幼い頃から筧口は冷めた子供だと評価されがちだった。それは他人の些細な表情や仕草から偽りが見抜けてしまうことが原因だと、筧口自身は分析していた。もっと正確には、真実と嘘というのは正反対の事柄のようで実のところそれほど変わらないと、筧口は早い段階で気づいてしまっていたことだと思っていた。
例えば、同じ出来事について複数の人間が語るとき、それぞれの立場で全く異なった内容になってしまうことがある。立場には文脈がある。簡単に言ってしまえば「都合」だ。その都合によって語る内容を大げさにする。地味にする。改竄する。意識的にも、無意識的にも、あるいは半無意識的にも。そして、例え意識的に改竄した物語であっても、語り手の都合にとってはその瞬間真実になっている点が、真実という概念の不可解さだと、筧口は密かに思ってきた。
要するに、そういった真実の枠組みの覚束なさを、筧口は幼い段階で受け入れてしまっていたのだ。極論かもしれないが、ある人にとっての真実とその他の人にとっての真実、それらのズレに付けられたラベルが「嘘」なのだと、認識していた。
しかし、そんなことは日常生活で口に出してはいけないことも、筧口は早期に学んだ。「現実世界」には「真実」と言われるものが一つ、あるいは一連の流れとして存在しているという便宜上の基盤が必要なのだ。
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