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第一話
「なぁ、お兄サァン? ほら、謝れよ」
「……悪いのは君達ですよね」
「はぁ? お兄さん、誰相手にしてるか分かってんの? こっち三人も居るんだぜ?」
「ぶつかって来たのは、君達だよ……」
「はぁ? お兄さんが余所見してたからでしょーが」
「ったく、面倒くせぇなぁ!」
俺は間違ったことは言っていない。
ただ、夜に歩いていたら一人の男にぶつかって、謝ったのに聞こえないとか言って、俺を路地裏に連れてきた、この男達の方が間違っている。
面倒くさいのはどっちだ。
「ほら、歯ぁ食いしばれよ」
この男達は、見た所いつも喧嘩をしているようだ。
そんな奴等に俺が勝てるわけがない。
一体、何度殴られたのだろう。
俺が弱いせいもあるが、全く刃向かえない。
暴力も、教師の立場である俺が、できる筈がない。
「……面白いことしてるね、僕も混ぜてよ」
「あ''ぁ?」
何処からか、声が聞こえてきた。
精一杯、力を込めて辺りを見回すと、其処にはある男の子が立っていた。
「テメェ、誰だよ! 邪魔すんなよなぁ」
「邪魔してないデショ。 僕も混ぜてって言ってるんだから」
俺から見ると、この男の子は結構ひょろっとしている。
そんな子が、この男達に勝つわけがない。
そう思っていたのに。
「……結構アッサリじゃん。 なぁんだ、つまんないの」
「……な、に……」
「あ、先生大丈夫? 先生に死なれたら困るんだよねぇ、僕の大切な人なんだから」
何で、こんな夜中にこんな子が?
何で、この子は俺を先生と呼ぶんだ?
俺が大切な人?
訳がわからない。
「さぁ、帰ろうか、僕達の家に」
そう言って微笑んだ少年を最後に、俺の意識は遠のいて行った。
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