第一話

3/4
前へ
/5ページ
次へ
「だからさぁ、先生は此処から出られないの」 「ぅあっ……」 リードを引っ張られ、息ができない為、首を掻きむしる。 そんな俺の行為を見て、柊木は嬉しそうに微笑んでいた。 狂ってる… 今の柊木を見ていると、誰もがそう思うだろう。 「こら、自分で自分を傷つけちゃ、駄目デショ? 先生を傷つけていいのは、僕だけなんだから」 「っ……! ゃめ……、ひ、らぎ……!」 つぅ、と俺の鎖骨をなぞる柊木は、怖いほど笑顔だった。 「柊木じゃ、ないデショ? ほら、僕は飼い主なんだから。 御主人様、は?」 「やっ!……ぁっ…」 「……先生……、躾が必要みたいだね……」 首輪を掴まれ、怖くて、反射的に柊木の頬を引っ掻いてしまった。 それが気に触れたのか、顔を近づけ、また怖い笑みで俺をじっと見つめた。 「ペットの躾は飼い主がしっかりやらないと、ね……」 「やめ、ろ……っ、柊木……!」 「先生は悪い子だなぁ、飼い主の言うことが聞けないなんて」 「ひっ……!」 「どう? 冷たくて気持ちいいデショ?」 何故かベッドへ押さえつけられ、お腹にローションをかけられる。 冷たくて、気持ちが悪くて、怖くて、必死になって逃げようとする。 そんな俺を柊木は観察するかの様に、じっと見つめるのだった。 逃げなくちゃ… 本能で、そう思った。 ベッドから抜け出て、部屋の扉まで急いで歩く。 柊木は俺を止めようとはせず、只々見つめているようだった。 寝室から出た俺は、玄関へ行こうと必死に歩を進める。 痛む体を無視して、なんとかこの地獄から抜け出そうと、必死に。 寝室から出ると、其処にはリビングがあり、その扉の奥を行くと、玄関があった。 「やっと、出られる……」 そう思った。 だが―――、 「残念だったね、先生。 その鎖、結構長いんだけど、玄関の手前で長さに限界が来ちゃうんだ」 「そ、んな……!」 さっきまで、大人しく俺のことを見ていただけの柊木が、俺の後ろに立っていた。 鎖がジャラッと音を立て、諦めろと嘲笑っているように思えた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加