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一章「迷える子羊たち」
私は今、ある喫茶店の扉の前で立っている。『トルメード』という名前のプラスティックで出来た看板がそこにあった。この店はメイド喫茶である。ただ興味があったから来たものの女である私が入ってもよい場所なのだろうかと思って躊躇してしまう。
「おい、早く入れよな?ん?君、かわいいやん。俺と遊んでかね?」
後ろから声がかかるかと思ったら、金髪頭で俗にいうチャラ男だ。
(遊ぶって何だろう?でもなんかヤバそうだし、どうすれば?)
私に向かって強そうな手が伸びて来る。
「おやおや、お客様。いえ、お邪魔様。あなたのような汚れた苔のついた手に新品な皿を触れてもらうと苔が移ってしまいますわ」
その声に聞き覚えがあった。私は体を折って頭を下にする。
「うわっ、出た。眼帯女店長」
「お邪魔様、大変私の口で吐くのが失礼ですが、麗しきが足りません」
「それ、自分で言いますか?くそっ」
「仕方ありませんね。では、この眼帯を……」
「あぁ、分かった分かった。分かりましたよ。ったく、じゃあな。子猫ちゃん」
そのまま去っていくのが分かった。私はまだ頭を下げ続けていた。そんな私を見て彼女は私に声をかけてくる。
「お嬢様、大変ご迷惑をおかけ……あっ……」
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