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「あ、僕のことは将之(まさゆき)で、いいです。それにしても、相変わらず平野先輩は面白い事言うなあ。あはは」
と、知己の嫌味などに気付かずに屈託なく笑った。
「勤務時間過ぎてるから、年休届けはいりませんよ」
この嫌味さえ通じぬ相手に何言っても無駄と、知己はむすっとして黙り込んだ。
「さ、行きましょうか」
「……どこに?」
「ホテル」
「……?! お、お前!昨日の今日で、何言ってやがる。俺は嫌だ!」
昨日の行為を思いだし、知己は真っ赤になって狼狽した。
「? 夕飯、まだでしょう。お腹、すいていませんか?」
「……お前、一体何が言いたいんだ?」
会話が微妙に噛み合っていない気がして、知己は将之に尋ねた。
「ああ。『今日のめあて』を言っていませんでしたね」
「妙なところで授業用語を使うな」
「今日のめあては、『先輩のいい所探し』です」
「なんだ? それは」
「実はですね、今日、僕は小学校の道徳授業の研修に行きました。『友達の良い所を見つけ、お互いの良さを認め合おう』という内容でした」
「道徳……そうだな。お前には、道徳心の学習はかなり必要だと俺は思う。『ゆすり』はよくないことが、分かっただろう」
「それとこれとは違いますよ。私物を公教育の場に……」
知己は、そんな将之のお説教を終わりまで聞く気はない。
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