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第1話 視察
「午後から視察が来ますから、皆さん、そのつもりで対応をお願いします」
木の葉舞う十一月の半ば、県立東陽高校の職員室の昼下がり。
後三年で定年を迎える校長が告げた。
「……視察って?」
2年担当教師、専門教科は生物・化学科の平野知己(ひらの ともき)は、隣の席に座る同学年担当、専科は日本史・世界史教師の樋口に尋ねた。
「県教委(県教育委員会の略)の偉いお役人が来るんだと。朝礼で校長が言ってたぜ」
(そうだっけ?)
うっかり聞き逃していた自分を、知己は少し恥じたが、樋口の関心は、朝礼を聞いていない知己よりも県教委のお役人にあるらしい。
「そういうお偉いさんに限って、幼稚園から大学までオール私立校を出ている金持ちのボンボンなんだ。そして、公立学校に何の知識もない奴らが、適当に講釈たれるばかりか、余計な詮索までしていきやがる。現場で公立の生徒を扱う身になってみろっていうんだ」
樋口はやややさぐれて、そう言った。
社会科教員という肩書きの所為か、「役人」だの「お偉いさん」だのの言葉を使う。
そんな言葉に、嫌みともやっかみとも取れる感情が交じっているのを、理科教員である知己はひしひしと感じた。
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