第1話 視察

2/30
1286人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
 それを、ふうんと聞く知己も、樋口にほぼ同感だ。 (ま、私立校にいい思い出はないし、な……)  と思う。  平野知己は、それこそ公立学校ロードを突き進む平々凡々な家庭に生まれた。  しかし、体調不良の為公立の高校受験に失敗。金のかかる私立男子校に通う羽目となった。はっきり言って、それは大変な3年間だった。  端正な美しい顔立ち、艶のあるさらりとした黒髪、そして身長170㎝のスマートな体型が災いして、入学してきた時から本人の意志とは全く関係なく、男子高のアイドルにまで祭り上げられてしまったのだ。もらったラブレターやバレンタインのチョコレートの数は、計り知れない。全て男からという情けなさに、もらった端から捨てていった記憶ぐらいしかない。 (女子がいない身代わり……)  と、本人は考えていた。  そこで男らしさをアピールしようと、高校3年間は剣道部に所属したものの、結果は爽やかなスポーツ少年という付加価値を付けた。ますます、知己ファンを増やしただけであった。  そう、「ファン」。  暗黒の高校時代には、密かにファンクラブまであったという噂も聞いた。実在は、知己も恐ろしくて確かめていない。  そんな真っ黒な3年間を経たあとは、元の公立ロードへ無事戻った。     
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!