第8話 教育実習生

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 知己のいまだ浮かぬ表情に、将之は自分の言葉を疑っているのではないかと思い、 「大丈夫ですよ。本当に何もする気はないですから。……まあ、その気になれば、僕は教育委員会だし、あいつは実習生だし。大学に問い合わせたら、大抵の事は簡単に調べ上げられますけどね。多分、あいつもそれを分かっているんでしょう。だから敢えて、名前だけを聞いたんですよ。僕との約束を守る気があるかどうか。あいつもそれをちゃんと理解した上で名前を自分で答えたんだと思いますよ。だから、もう教師や生徒によからぬ事もしないでしょう」  と、付け加えた。  確かに教育委員会所属する将之ならば、阿波野の名前以外の情報を得るのは容易いだろう。  それどころかその気になれば、教員への道さえも絶つこともできるだろう。  だが、将之は今回はそこまでしないと言う。 「……そうか」  今度こそ本当に安心して、知己は深く息を吐いた。 「それに、先輩の色香に迷う気も分からないではないし……」  と、将之が余計な一言を付け足した。 「……おい。俺は被害者だと、何度言ったら分かる……?」  知己はテンション低く、言った。 「あんな悪い虫から、先輩を守らねば……」  将之が知己の主張など完全に無視して呟いた。 「お前は、なんであの時間に東陽に来たんだ?」     
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