第8話・余談

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 門脇が遊んでいた手錠を「没収」と取り上げたのだ。  それを阿波野は実習が終わり返しそびれたから……と、知己に預けたのだ。  知己にとっては災難以外のなにものでもない。  学年飛び越えて、生徒を呼び出すのは当該学年の先生に対し、失礼に当たるだろうと思い、担任兼1年理科担当教師の落合に 「これ、門脇の持ち物らしいです。実習生の阿波野君が没収したらしいのですが……落合先生から返してもらえませんか?」  と、頼んだ。  しかし、落合はひどく迷惑そうな顔をすると 「平野先生から返してください」  と言った。  今年、定年を迎える落合は、その力量を買われて門脇の担任になったのだが、彼の手にも余るのだろう。  門脇を指導し続けているがうまく行かない。  彼の口ぶりからは、その疲れを感じさせた。  故に知己も、落合に頼むのはやめて自分から返すことにした。  それでその日の放課後、理科室に門脇を呼び出した。 「2年の先生が、俺に何の用?」  軽いアルミのドアを乱暴に開けると、門脇がずかずかと入ってきた。  見た目はまだ16歳の少年だ。  身長は知己よりやや低い。  だが体は知己よりもがっしりとしていて、確かにケンカ慣れしているような凄みある雰囲気を持っていた。     
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