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「そう? 生物はまだ少しは役に立つかもって思うけど、化学のどこが人生に役立つわけ?」
(そう、来たか)
確かに、水がH2Oと知ってても、人生で何の役に立つというわけでもない。
だが、知己もここで引き下がる訳にはいかない。
「……お前、ゆで卵は好きか?」
「唐突だな、先生」
「味付け卵は奥が深い」
「……ゆで卵はあのもっさもっさした食感が嫌いだけど、味付け卵は好きだ」
門脇が、知己の唐突すぎる質問に毒気を抜かれて、答えた。
「それが、何の関係有る訳?」
「実はな……化学の知識があったら、美味い味付け卵が食えるんだ」
「……はあ……?」
「お前、偏差値84もあるんなら半熟の味付け卵ぐらい作れるだろう? 明日、作って持ってこい」
「んなもん、学校に持ってこれるか!」
門脇がさすがに、知己の申し出に文句を言った。
「担任の落合先生には、話を通しておく。明日、放課後、半熟味付け卵をここに持ってこい。いいな」
「先生、俺の話、聞いてる?」
「聞いてる。化学をバカにするやつは、許さない」
「……なんで、そうなる訳?」
「化学が人生に置いて、少しは役に立つって所を教えてやる」
「偉そうに」
門脇が、知己の言葉に忌々しげな反応を見せた。
そして
「分かった。俺が作ってこれたらどうする?」
「……」
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