第8話・余談

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(でも、同情はしちゃいけないよな。それこそ、こいつに失礼だ)  色々な人生がある。  何がいいとか悪いとか、比べようなどできない。 「たまたま親父が家に居て、朝、飯の時に昨日作ったこれを食べてもらったんだ。美味いって言ってくれた」 (ああ。門脇の笑顔の原因は、父親の言葉かもしれないな……)  知己はそう思いつつ、知己も用意していたタッパーの蓋を開けた。 「先生の言いたいのは、アレだろ? ゆで卵の半熟に秘密があるって事だろ? 偏差値84の俺への挑戦状にしては、陳腐だったよな」  門脇が不敵な笑みを浮かべて言う。 「俺、ちゃんと知ってるんだぜ。白身と黄身の固まる温度には違いがあるって……」 (なるほど)  それをきちんと分かってて……つまりは自分に勝算ありと思って、昨日は渋々承知したのだとしたら、この門脇という少年。  わずか16歳にして相当な食わせ者だ。  不利にみせかけて、ちゃんと計算高く生きている。 (それもこいつの処世術なんだろうな……)  と、知己は思わないでもない。  16歳にて、この駆け引きの巧妙さを身につけたとしたのなら、それまでの彼の生き方に寄る所と判断される。 「それだけじゃない」  門脇は言葉を続ける。     
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