第8話・余談

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「後、味だけど、な」  門脇の一人舞台は続く。 「これは母さんが言ってた。 『味は冷める時に沁み込む』  ってな。だから、ゆっくりじっくり時間をかけて冷ますといいんだって」 「それは俺も知らなかったな……」  知己は素直な感想を言う。  その知己の反応を見て、ふふんと門脇が鼻で笑う。 「先生。俺んちな、シャトルシエフって保温鍋があるんだー」 (確か、将之んちにもそれはあったな……)  昨日将之もそれを使おうと言ったのだ。  保温能力が高く、煮込み料理などに最適の鍋だとも言っていたのだ。 「ま、色々理屈を言っても、食べて見るのが一番だよな。先生。俺のを食べてみてくれ。俺は先生のをもらうから」  自信満々に差し出されたそれは、見事なまでにすっかり薄黒く染まった卵だった。 「ま、理論はその辺でいいか。あ、俺の食う時、気をつけろよ」 「?」  意味が分からずに門脇は一口、知己の卵をかじる。  だらり。  中から黄身が蕩けだした。 「な……」  反対に門脇のは完熟とまではいかないが、半熟部分がかなり少ない仕上がりだった。 「なんで……?!」  門脇は驚きが隠せない。 「……先生、説明してくれ」     
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