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「後、味だけど、な」
門脇の一人舞台は続く。
「これは母さんが言ってた。
『味は冷める時に沁み込む』
ってな。だから、ゆっくりじっくり時間をかけて冷ますといいんだって」
「それは俺も知らなかったな……」
知己は素直な感想を言う。
その知己の反応を見て、ふふんと門脇が鼻で笑う。
「先生。俺んちな、シャトルシエフって保温鍋があるんだー」
(確か、将之んちにもそれはあったな……)
昨日将之もそれを使おうと言ったのだ。
保温能力が高く、煮込み料理などに最適の鍋だとも言っていたのだ。
「ま、色々理屈を言っても、食べて見るのが一番だよな。先生。俺のを食べてみてくれ。俺は先生のをもらうから」
自信満々に差し出されたそれは、見事なまでにすっかり薄黒く染まった卵だった。
「ま、理論はその辺でいいか。あ、俺の食う時、気をつけろよ」
「?」
意味が分からずに門脇は一口、知己の卵をかじる。
だらり。
中から黄身が蕩けだした。
「な……」
反対に門脇のは完熟とまではいかないが、半熟部分がかなり少ない仕上がりだった。
「なんで……?!」
門脇は驚きが隠せない。
「……先生、説明してくれ」
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