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取引とはいえ、強姦されたも同然の相手に対する態度じゃないと自覚しつつも、知己はその理由を探った。
(お互い、こんな格好のままじゃ帰れないし、な)
不本意とはいえ、男との行為に及んだことを隠すためだと自分に言い聞かせた。
行きついた理由はそこだったが、こじつけにも感じられた。
やっと身支度を調え、人心地がついた。
白衣を着けたまま犯された。その姿は、知己を惨めな気持ちにさせるには十分だったのだ。
気持ちを落ち着けると、知己は自分と将之にコーヒーを入れた。
あんなコトを強要した将之ではあるが、なんとなく憎めないでいる。
どこか抜けている世間知らずの、おぼっちゃまらしい将之の人柄のせいか。それとも最中の幾度という将之の「好きです」の呪文が効いているのだろうか。
コーヒーカップを口に運びつつ、素朴な疑問を知己は尋ねた。
「……八年間、誰も好きにならなかったのか?」
「そうですね」
将之は、少し照れくさそうに微笑むと
「何人か、女性と付き合ってはみましたが、先輩より好きになる人はいませんでした。男性はもちろん、先輩が初めてですよ。想像していたより良かったです」
と答えた。
何をいけしゃあしゃあと言うのだろうか、この男は。
呆れて
(聞くんじゃなかった……)
と、後悔すると共に
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