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男女共学の公立大学で教職免許を取り、教員採用試験にも無事受かって、ここ県立東陽高校の理科室教壇に立っている。
26歳。
「美人」と女性の褒め言葉を浴び続けたあれから八年。
知己は、黒歴史とも言える高校3年間を忘れ、更に爽やかさと精悍さのオーラを身につけ、今では東陽高校・女子のアイドル的存在になりつつある。
「視察の人……、校長室でちらっと見たけど、若くて素敵な人だったわよ」
知己達にお茶を運びつつ、事務職員の坪根卿子(つぼね きょうこ)が言った。
「女は、すーぐ顔に惑わされる」
卿子の発言に、樋口が愚痴をたれた。
それに対し、べえっと舌を出し去っていく卿子の後ろ姿を見つめ
(「美人」という言葉は、彼女に使うべきだよ)
と、知己は思った。
同じ歳の卿子は美しく、仕事もさばける。
テキパキと学校事務業をこなす傍ら、よく気が付き、お茶運びなどの雑用も進んでしていた為、職員の間でも人気があった。
そして、同時に知己の憧れの人でもあった。
そんな時である。
校長室のドアが開き、校長と例の視察が職員室に挨拶に出てきた。
「県教委の中位将之(なかいまさゆき)です。今日はよろしくお願いします」
その男をみて、職員室内はざわついた。
卿子の言う通り、その教育委員会の男があまりにも若かった所為だ。
「幾つだよ……」
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