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第2話 いい所探し
夕闇迫る駅前、平野知己は通勤帰りの人いきれの中、ただひたすらぼーっと佇んでいた。
金曜日の18時。週末の帰路をゆく人々の足取りは軽い。
「遅いな……」
約束の時間は、既に15分は過ぎた。
待ち人は来ない。
携帯のメールをチェックしてみると、そこには
「10分、遅れます。将之」
のメッセージ。
「バカ野郎。それでも、5分の遅刻だ。時間にうるさいお役人の癖に」
と、社会科教師の樋口風にぼやく。
昨日の今日なのに、「会いたい」とメールを送ってきたのは、将之だ。
会ってくれないと、私物の件で東陽高校職員に始末書を書かせるとまであった。
(つくづく、嫌な奴だ。しつこいだけじゃなく、どこまでも自分の都合ばかり押しつけやがる……)
とは思うものの、どこか抜けている将之を憎む事はできなかった。
あんな陵辱を受けてさえも。
「腰、痛ぇ……」
と、呟く。
理科準備室の教師用机は固かった。
あんな不安定で、しかも固い所で男に貞操を奪われるなどと想像できるはずもなかった。
そんな事を考えていたら、その脅迫者でもあり強姦野郎でもある中位将之が現れた。
「遅れまして、すみません」
爽やかな笑顔で、素直に謝る。
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