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(庶民的だと思ったこと……撤回)
停めてある車を見て、知己は怒りさえ覚えた。
「おい、なんだこの車は?」
「僕の車ですよ」
「そんなの分かる。俺は、そんな事を言っているんじゃない。この車は、国産じゃない。俺でも知っているぞ、このエンブレムは」
「ええ。ドイツ車ですが……?」
「……どこの公務員が、ベンツなんか乗り回している!?」
日本国内でもメジャーな、その見慣れたエンブレムの車の名前を知己は言い当てた。
「その言い方、気に入りませんね」
むっとして、将之が言い返す。
「ああン? 何だよ。見たまんまを言っているだけだぞ。喧嘩でも売ろうって言うのか?」
望む所だと言わないばかりの知己。
喧嘩でもして、この場を去りたい。いっそ、嫌われたい。
「ユーザーは『ベンツ』などと、俗な言い方をしないんですよ。『メルセデス』って言うんです」
(……どうでもいい……)
がっくりと、力を落とす知己だった。
そんなこんなで、拒否することもできない知己はメルセデスに乗せられ、ショッピングモールやスポーツジム・プール、映画館などの娯楽施設をも包括する高層ホテルに連れて行かれた。
(こんな所にカレー屋なんか、あったか?)
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