第3話 親友

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 知己には5才離れた兄が居たが、隣の市に住まいを構え、家庭を持っている。  盆・正月に子供を連れて遊びに来るくらいだった。  がらんとした家に入ると、家永は慣れた様子で2階の知己の部屋に向かった。 「スーツだなんて珍しいな」  家永が言う。 「ああ、昨日仕事帰りに将之と会って、まんま飲みにいっちまったから、着替えられなかった」 「出張かなにかの帰りだった訳か」 「……ま、そんな所……だな」  まさか脅されてデートしたとも言えず、ぼそぼそと知己は答えた。  先ほど将之に言われた 「嘘、巧いんですね」  が、少しだけ引っかかるが。 (言えるわけがない。あいつに脅されて、セックスしたなんて)  自然と視線が床へと落ちた。 「あ! 部屋に入るのちょっと待った」  部屋のドアの前で、知己がストップをかける。  ドアノブに手をかけ 「なぜ?」  家永が不思議そうにした。  いつもは、そのまま部屋に直行だった。 「……着替えたいから」 「? 別に俺の前でも着替えていいんじゃないか?」  訝しげに聞いてくる。  いつもなら、そうしていた。  だが、今日はこれまでと違う。 「……うん、その……」  いい答えが見あたらず、知己は言葉に詰まり 「どうでもいいじゃねえか。ちょっとだけ着替えるの、待っててくれ。そんなに待たせないから」     
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