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「入っていいぜ」
知己は、昨夜の痕隠しに選んだタートルネックのシャツといつものジーパンに履き替え、家永を部屋に招き入れた。
「いつもの平野になったな」
「え? そうか?」
家永の言葉に、少し嫌な汗をかく。
昨夜の匂いは、朝のシャワーで流した筈。
ばれっこない。
自分が男に犯された事など……。
(情けないな……)
知己の心の中を、何とも言えない惨めな気持ちが通り過ぎる。
だが、それも僅か。
今は、家永が居る。
(こうして家永と話していると、やっと日常に戻ってきたって感じがするな)
昨夜も、その前の事も、全部悪い夢。
知己は、いつもの自分に戻れた気がした。
六畳の部屋の真ん中に置かれた小さめのテーブルに、二人分のコーヒーの湯気が立つ。
そこに座って、いつもの近況報告など色々と話を始めた。
「あ、そうだ。この間、お前が探してた本を見つけて持ってきたけど」
おもむろに、家永が鞄の中から本を取り出した。
「へえ、よく見つけたな。俺、ソレ、すっげ読みたかったんだ。サンキュー」
受け取ろうと知己が腕を伸ばすと
「……」
不意に家永が眉を潜ませた。
「何?」
「平野……、その痣は……?」
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