1294人が本棚に入れています
本棚に追加
/340ページ
と、家永の指が止まる。
「平野……」
今までの荒々しさが薄れ、家永が冷静さを取り戻したかのようだった。
それに安心し、息も絶え絶えに知己は言った。
「俺は……お前とず……っと友達で……いたいんだ…。こんな事したら、俺はお前を失ってしまう……」
「平野……」
家永は少し考え、指をゆっくりと引き抜いた。
ちゅく。
知己のそこから、耳を覆いたくなるような恥ずかしい水音が響く。
「……ん」
ぴくりと、引き抜かれる最後の瞬間、名残惜しげに知己の腰が揺れた。
だが、「友達でいたい」というのも本心だった。
「……乱暴して、すまなかった……」
家永は知己から下り、俯きつつ言った。
「いや……、いい」
やっとの思いで体を起こし、知己は
「その……俺は、お前にそんな顔して欲しくない……」
あまりにも俯く家永が不憫に思え、そう言った。
「……だが、俺の気持ちは本当だ」
家永が、ふらふらと起き上がった知己の背を支えるように手を添える。
背中に触れるその手が温かい。
「……うん」
答える知己の顔を、家永が覗き込んだ。
「唇、切れてしまったな。噛みしめてたもんな」
家永が、知己の唇に指を這わせる。
そのまま顎を持ち上げられ、知己は家永と目が合った。
最初のコメントを投稿しよう!