第8話・余談

5/21
前へ
/340ページ
次へ
「例えば、髪の色とか……。いかにも……な感じじゃないか。高校生らしい身なりをすれば、多少は因縁ふっかけられる事もなくなるんじゃないか?」  知己が思いつくままに言ってみた。  教師としての指導……というよりも自分の主観、もしくは人生の先輩としてのアドバイスに近い。  だがその時、門脇の眼光が更に鋭く光った気がした。 「……これ、地毛」  言葉少なく、知己に告げた。  そこには、明らかに知己の見た目重視の意見に批判の意が込められていた。 「あ、そうなのか。ごめん」  知己は反射的に謝っていた。  すると……これまた妙な現象が起こった。  氷のように冷たく批判と侮蔑に満ちた門脇の目が、大きく見開かれ、ぱちぱちと数回瞬きされたのだ。  言ってみれば、正に「目が点」状態になったようだった。  その素っ頓狂な表情は、16歳という門脇の年相応の表情にも見えた。 (あれ? こいつ、やっぱり高校生だ)  その変化に、いつも接している生徒らとなんら変わりない雰囲気を感じ取り、知己の気持ちは和んだ。 (問題行動多いって聞いてたけど……こいつ、ただの16歳の高校生なんだ)  さっきまでの警戒心はどこへやら。  急に門脇に親しみを覚え、 「なんか変な事を、また言ったか?」  さっきの表情の変わりよう思わず尋ねてしまった。 「……大人が謝るのを、初めて聞いた」  真顔で門脇が言った。     
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1301人が本棚に入れています
本棚に追加