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玉翠国の王、白葉は和が好きらしい。
平安時代と呼ばれていた頃の建物がとくに好きだそうで、彼は寝殿造ふうの豪華絢爛な御殿に住んでいた。
艶やかな長い黒髪を高い位置で結っている少女は、垂れてきた前髪を耳にかける。
そして板張りの廊下を走り、主殿でくつろいでいるであろう大好きな白葉の元へと、歩みを進めた。
早く会いたい、早く会いたい。
口に出さずとも分かる動きで菫色の着物を揺らし、白葉の姿を視界に入れると見目麗しい少女は、断りもなく御簾を上げ中へと入った。
彼女の名は驪明。青の空の下を治める大国である、碧禮国の王、驪珀の愛娘である。
「白葉さまぁあああ!」
その鈴の音を転がすような声には似合わない元気っぷりは、いつも周囲を驚かせていた。
形のいい眉に、大きくとも涼しげな印象を与える、切れ上がった妖艶な瑠璃の瞳。
白磁を思わせるなめらかな肌に、ほっそりとした輪郭。
唇は男であれば一度くらい吸い付かせて欲しくなるような、そんな色気を漂わせるものなのに――
「驪明さま、品がありませんよ」
ぎゅううう。彼に抱きついた驪明は窘められ、しょんぼりと肩を落とす。
しかし、決して離れようとはしない。優しい白葉は自分のことを突き放してはこないと、知っているからだ。
ぎゅぅうう。再び、抱き締める。
するとさすがに我慢できなくなったのか、白葉が困ったような声を出した。
「……れ、驪明さま、そろそろ離していただきたいのですが」
「嫌です。だって白葉さまに会えたの、三日ぶりなんですもん」
「ええ、そうですね、三日ぶりです。ですが……私たちの三日というのは、瞬きほどの短さかと」
いけず。とでも言いたそうに見たからだろうか。
ますます白葉が困ったと眉を下げ、驪明の背中をぽんぽんと撫でた。その手はとても優しく、温かい。
心地よさに目を細め微笑んだ驪明はやっと満足して、白葉の前にきちっと背筋を伸ばし正座をした。
「白葉さま、お話しさせていただきたいことがあります」
金糸の癖のない長髪を揺らした白葉が、またか、と、垂れ目がちな瞳に疲れの色を滲ませる。
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