第1章 止まらぬ気持ち

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「ご、ごめんなさい……」 「お分かりいただければそれでよいです。……さあ、そんなお顔はなさらずに、こちらを羽織って」  ふわりと長羽織を着させられ、驪明はぶるっと身体を震わせた。  そういえば、寒い。  季節的に吹く風は冷たく、風邪を引かないようにと彼が気を利かせてくれたのだろうと分かったが、自分たち神は病気にはかからないわけで。  それを知っていつつもこうして身体を気遣ってくれる白葉に驪明はむず痒くなってしまい、視線を明後日の方向へともっていった。 「さあ、行きましょうか」  白葉が風に喚びかけ、二人を紅葉の素晴らしい場所へと連れていく。  この場所は今、もみじを肴に酒を仰ぐ沢山の神々が(つづみ)の音にうっとりとしていて、わいわいがやがやというよりは、優雅に時を過ごしているように思われた。  しかし、彼らは白葉を見るなりハッと目を見開き、恍惚とした顔で彼に吸い寄せられていく。  瞬く間に白葉は神々に取り囲まれ、もはや紅葉を楽しむどころじゃない。  困ったと肩を竦めた白葉は驪明の腰をさりげなく引き寄せ、この波にさらわれないようにする。  だが、幼い神が悪気なくその間に入ってしまい、驪明は目が回る勢いでくるくると外に放り出されてしまった。 「そんなあ」  膝は土についており、群がる神々の中心にいる白葉を見ようとするが、まったく姿を確認することができない。  中に入っていきたくても隙間なんてなく、驪明は諦めたように離れとぼとぼと歩き、(すみ)にぽつりと立っているもみじの木の下にしゃがみ込んだ。 「お前も、ひとりなの……?」  見上げると、返事をするようにさわさわと風に揺れるもみじ。  なんだか少し寂しそうに見えて、驪明も寂しい気持ちに目を伏せた。 「あのね、白葉さまと紅葉を見にきたのに、ほら、あれ……」  見ずに神々の中心にいるであろう白葉の方を、指でさす。 「白葉さま、皆に人気だから。……私とは逆ね」  自分で言うとなんだか虚しさが倍増した気がして、驪明は指の腹で土になにか適当に絵を描いた。  お世辞にもうまいとは言えないその絵は、彼女と白葉が仲睦まじそうに手を繋いでおり、沢山の花々に囲まれているもので、つい、切なげな吐息が漏れてしまう。
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