序章

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 雪は嫌いだ。  津々(しんしん)と降り積もる雪が、中性的な顔立ちの男の、高い鼻先にちょんと乗っかった。  ひんやりとしたかと思えばすっと溶けてしまい、その存在を消してしまう雪。  まるで初めからそこにはなかったかのように、ああ、なんて儚いのだろうか。  低い位置で結っている、長い金糸の髪をなびかせている男は、手のひらを夜空に向ける。  そして、ふわりふわりと舞い降り、その肌に乗っかっては消える雪に、ふと残酷な笑みを浮かべた。 「莫迦(ばか)だね。……私に落ちなければ、もう少し長くこの世にいられたというのに」  優男の印象を与える、垂れ目がちな翡翠の瞳には相応しくない、酷く冷めた声が風に乗って天へと昇っていく。  ここは、神の住まう世界。この世界の空は青、黄、緑、白の四色に分かれている。  その四色の空は、この神の国が四つに分かれ、また、四つの国が治めているということを表していた。  彼が今居るのはその、緑の空の下を治めている大国――玉翠国(ぎょくすいこく)である。  緑豊かなことが特徴で、冷たい雪を跳ね退けて咲く花々が今、彼の足元で軽やかに踊っていた。 「人間の命はよく、花にたとえられますが……ふふっ、私には、この雪のようにしか、ね」  様々な経験を得て成長し、もっとも大切な時期に美しく輝き、そして萎むように老いて短い生涯を終える生き物。  それはさながら花のようだと神々は口々に言うが、彼の目にはこの、雪のようにしか映らなかった。  雪は、舞い落ちることしか考えていない。  危険だとか、もう少しこの世にいたいとか、そんな気持ちはないようで、ただふわふわと落ちてどこに辿り着くのか、考えていない。  人間もそうだ。楽になりたいからとただ知識を求め、その知識が、創りだすものが、自分たちの命を縮めているのだと理解せずに。  ただ、この雪のようにどこに辿り着くのか考えないで、ひたすらに―― 「私は雪を、愛でられるようになるでしょうか……」  
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