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「で、なんの映画が観たかったンですか?」
歩きながら、僕は田中さんに訊いた。
田中さんは、照れたような顔をして、「実はまだ決めてない」と言った。
え?でも、観たい映画があるからって・・・
あれって、口実だったってこと?
「バレちゃった。類くんと出掛けたかったから・・・理由は何でもよかったんだ。」
田中さんは、そう言うと、いしし、と笑った。
笑顔が悪戯坊主みたいに可愛い人だ。
僕はその顔を見て、フフッと笑った。
「ごめんね。怒ってない?」
「全然!僕も、田中さんと一緒ならどこでも楽しいです。」
言ってしまってから、あ、これはまずかったかな、って、思った。
田中さんが、固まってしまったから。
まだ、本当に田中さんのことを好きかどうかも分からないのに、こんなことを言ったら、僕が田中さんのことを好きだと思われちゃう。
「なーんて。ちょっと、固まらないでください、田中さん。冗談ですよ。」
僕はそう言うしか無かった。
ちょっぴり、心に引っかかる何かがあったけど・・・
田中さんは、僕の手を取って、自分の胸に引き寄せた。
えっ・・・えっ・・・な、何これ・・・
僕、抱き締められてる?
「好きだ。」
田中さんの言葉がハッキリと聞こえた。
でも田中さん、ここ、公共の場ですよ・・・
その言葉は、僕には嬉しかったけれど、それよりも周りの反応に気が行ってしまった。
キャーキャー叫んでる女の子達や、通りすがりにチラチラ見ていく人達や、明らかに引いている男の人達。
「田中さん・・・ここじゃ・・・いやです・・・・・・・」
小声でそう言い、僕は身を捩った。
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