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彼女は近衛兵に命じ、自分達の第三王子を呼んだ。
その頃、当の本人である第三王子デュラックは、魔界の北端の領国から届いた文献を、片っ端から読んでいた。
今彼が読んでいた文献には、レザンドニウム領主からの依頼で、自分の城の真上を覆う黒い雲のことや、その雲の発生源を突き止める役を、フィブラス王国の三人の王子の一人である彼に頼むといった内容が綴られている。
それらの文章を見て、デュラックは溜め息を漏らす。
(確かに私は、あの領国の黒い雲のことはよく知っている。
それを浄化できるのは、極僅かな龍魔族だけだ、ということも。
でも、だからといって、私が黒い雲を浄化できる術を持っていることにはならない。
領主には悪いが、この件に関しては、断りの返事をしよう)
デュラックは高級そうな紙を一枚取り出し、羽のついたペンにインクをつけ、返事を書こうとした。
が、その時、誰かが彼の部屋のドアを叩く音がした。
おそらく衛兵の一人だろうと思い、デュラックはドアを自分の方に開く。
案の定、彼の目の前には、城の衛兵の姿が映った。
デュラックは眉間に皺を寄せて、衛兵に言う。
「私に何の用だ?
もし、例の黒雲について調べて来てほしいというのなら、悪いが、リーノかディアを当たってくれ。
私は、末っ子だからな」
デュラックは、手で合図しながら、衛兵を閉め出そうとする。
まるで、領主宛ての手紙を書くのを邪魔されたことで、機嫌を悪くしてしまったかのように。
だが、衛兵は緋色の兜の奥にある空色の瞳を細め、デュラックに問う。
「陛下にご不満がおありなのは、お察しします、デュラック様。
ですが、あのお方は王妃様のご意見に従い、あなたを呼ぶ決意をされたのだと存じます。
ですから、ご不満をぶつけるのであれば、私ではなく、陛下ご夫妻に直接会うほかありません」
元々頑固で王妃を困らせることが多いこの衛兵は、一歩も譲らずに、空色の双眸で第三王子を見つめる。
彼の意見を聴き、デュラックは溜め息を漏らす。
その溜め息には、うんざりした気持ちが顕著に出ている。
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