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口をへの字に曲げたまま、デュラックは赤絨毯を踏む。
それは、今にも床に穴を開けそうなほど、彼の足音は激しいものだった。
への字に曲がった息子の口許にも動じず、右側の玉座のマール王妃は口を開く。
「来ましたね、デュラック。
領国の異変を解決するためのお覚悟は、できましたか?」
三男に旅立ちの準備を急がせようとする王妃だが、その口調はまるで、息子を一人犠牲にしても何とも思わないと言っているかのよう。
国王夫妻の三男として生まれた自分に対する、あまりにぞんざいな扱いに対し、デュラックの拳が固くなる。
「母上、あなたは異変の調査のために、私をレザンドニウムに行かせようとなさっている。
ですが、事はあなたの思惑通りにはいきません。
第一、この国に領国の黒い雲を浄化できる術を持っている魔族が、いるとも思えません。
レザンドニウムでの件は、領国側に任せるべきです」
デュラックは、深緑色の双眸でまっすぐ王妃の方を見つめ、自分の意見を述べた。
だが、当のマール王妃は至って冷静で、青色の目を細めてくすくす笑っている。
「何が可笑しいのですか?」
突如笑い始めた王妃に対して、デュラックは首を傾げた。
「デュラック、あなたは先程、『この国に、領国の黒い雲を浄化できる術を持っている魔族が、いるとも思えません』と言いましたが……。
実はあなたが、そのうちの一人なのですよ」
母王妃から自分が浄化術を持っていることを知らされたデュラックは、深緑色の両目を見開き、瞬き一つせずに彼女を見つめる。
(私が……。
浄化術の能力者?)
最初は何かの冗談だと思い、デュラックは冷静な顔つきに戻り、今度は父王と母王妃の両者を交互に見た。
〝そんな事実を知らされても、私は領国へは行きません〟という眼差しで見つめてくる息子を見て、ラドダン王は溜め息を漏らす。
「デュラックよ、お前はわしに似て頑固。
それは、二人の兄達も、わしらも認める所だ。
だが、今はお前と張り合っている場合ではない。
お前も見たと思うが、あの黒い雲は現在、レザンドニウムの魔道城を深く包み込んでおる。
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