過去からの贈り物

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「手紙を誰に?」 「未来の坊やにさ」  狐の面の人は笑っているようにも見えた。けれど、面をつけているので本当に笑っているのか分からない。狐の面の人は芯が濃い鉛筆と手紙、それに封筒を差し出した。それを見て、少年は首を振った。 「もうお金はないよ」  元々、持ってきたお金など僅かだった。屋台でたこ焼きの一つでも買えばあっという間に無くなってしまった。少年の場合は、くじ引きを引いて、その全てを外してハズレとしてスルメイカの足を二本もらった。それももう既に食べてしまった。 「お金はいらないよ。この手紙は普通の手紙とは違う。未来の自分に今の思い出を届ける代わり、お代をいただくのさ。坊やはただ、手紙を書いてくれるだけでいい。それと、未来の自分に向けて、何かプレゼントを添えてね」 「プレゼント?」 「手紙だけでは今の気持ちは伝わらない。手紙と一緒に、未来の坊やに届ける。私が必ず、届けるから」  狐の面の人はそう言って、手紙を少年に渡した。その時、少年は“未来”という言葉に憧れを抱いた。未来には、自分はどんな大人になっているのか。そのことを考え出すと止まらなかった。手紙を書くなど、馴れていないはずなのにその時は、スラスラと手紙がかけた。まるで、不思議な術にでもかかったかのように。  手紙を書いて三つ折りにすると、それを封筒に入れた。その時、一緒に大切にしていたメンコも入れた。もったいない気もしたけれど、狐の面の人の「必ず、届ける」、その言葉を信じて入れた。  狐の面の人は封がしっかりとされたのを確認すると、 「手紙が届くまで、今日のことは忘れていよう」 「忘れるの?」 「その方が楽しみが増えるだろう。過去の自分からの贈り物(プレゼント)なんて経験できることではないよ」 「でも、どうやって忘れるの?」 「なに、簡単なことさ。ちょっと、呪文を唱えるだけでいい」  狐の面の人はそう言うと、手を合わせて怪しげな呪文を唱えた。少年にはその時、なんと言っていたのか聞こえなかった。ただ、狐の面の人が手を大きく叩くと、辺りは一瞬、眩しくなって気が付くと店は消えてなくなっていた。  それと同時に少年は今のことを全て忘れてしまった。
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