■VIOLET

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松来綾音。31歳。普段は細々と翻訳仕事をする在宅ワーカー。これがいつもの私の人格。 34歳の昂一くんを夫に持って1年半。毎日彼と一緒に起きて、昼間は仕事と家事をしながら、ご飯を作って彼を待つ。 私はその腕に手を添えて、フライパンから摘み上げたお浸しを彼の口に寄せる。 指ごと唇が包んで一瞬どきりとした。ちゅく、と音を立て離れながら、「おいしい」と甘い声がひと言落とす。 「……久し振りに一緒に行けそうなお店の新規開拓をしたくなってね」 「そっか。どうだった?」 「残念ながらコウくんと行きたいと思う場所じゃなかったなぁ」 「あー、そういう所あるよね。またなんか見つけたら教えて。前に綾が教えてくれたワインバーは凄く良かった」 「ね!あそこまた行きたい」 嘘はつかない。辻褄合わせが面倒になる。 言うならなるべく真実だけ。余計なことは、特に言わないでおく。 罪悪感は、端からない。多分元々そういう風に思考が出来ている。 結婚するほど好きな人が出来て多少何かあるかと思っていたけど、結局芽生えなかったのは残念でもあり、そんなものとも思う。 お尻にかすかに感じる、彼の熱源。 でも今はまだ早い。お楽しみは後でとっておかなくちゃ。 「お風呂、入るんでしょ?その後でゆっくりしよう?」 甘えを滲ませ、媚びた上目遣いで昂くんを見上げた。すると彼は私の額にキスをして静かに離れた。 胸が高鳴る。嬉しくて、楽しみで、ちょっとだけ優越感。今夜はどんな夜になるだろう。 スワップの後みたいにまた興奮してせがむのだろうか。 昨夜の感覚は健在。そこに加えて昂くんが私に直に触れる。 これ以上の刺激、私は知らない。
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