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私は膝を抱き寄せ、確信に満ちた視線を彼に返す。
「自信満々。経験則?」
「ご想像に任せます」
「まあでも、あそこで挿れずに終わらせるってのは、俺には出来ない発想だった」
「そうした方がいいと思っただけよ。彼まで余計な罪悪感抱える必要はないから」
「享楽主義って割に真面目だね」
本当に真面目だったらこういう所に来ないよ。
そう言いたいのを飲み込んで人の気配に目線を上げた。3人分の水を持ったヤチさんがテーブルにグラスを置いてくれる。
「ありがと」
「いえ。僕の方こそありがとうございました。気を遣わなきゃいけないの、本当はこっちなのに……」
彼は申し訳なさそうに眉尻を下げ、しゅんと縮こまっていた。
奥さんの浮気につらい想いをする人がいるって知れて、私はとても嬉しいのに。自然と口元を緩め、彼の腕に触れる。
「ううん、気にしないで。でもこんなことでまで先輩の顔立てなくてもいいよ」
「ストレートだなぁ。耳が痛い……」
「心痛めるよりマシでしょ」
苦笑を漏らすワタルさんをからかってグラスに口を付ける。
火照っていた身体がすっと冷えていくようで、押し寄せてきた現実感。そういえば私、結婚していたんだった。
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