■VIOLET

20/22
前へ
/131ページ
次へ
ロッカーの中身を取り出して出入り口へ向かう。23時を少し過ぎたところ。ちょうどいい時間。普通の時間の流れとこの中での感覚は少し異なった。 「いかがでした?初めての単独は」 物柔らかな口調と表情で彼は私を窺い見る。 「楽しかったです。とっても」 「それならよかった。ではこちらがミオさんの会員証です。次回以降お持ち下さいね」 差し出されたカードを受け取って、もう一度彼と目を合わせた。 会員になった今日の日付。単独女性についたチェック。プレイネームが記載された会員証。見つかったらいけない唯一の証拠。 欲望にまみれたこの雑居ビルの片隅で、私も何かを起こす一人になる。 「どうも。じゃ、おやすみなさい」 「おやすみなさい。お気をつけて」 私が名付けた『ミオ』という人格。ここでだけ生きることが許される。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

788人が本棚に入れています
本棚に追加