■VIOLET

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――――翌日。 夕食の支度の途中で玄関の鍵が回る音がした。 フライパンの加熱を一旦止め、菜箸を置いてそちらへ向かうと、「ただいまー」と見慣れた姿をドアから覗かせる。 「おかえりなさい、昂一(コウイチ)くん」 無事帰ってきてくれたことにほっと顔を緩ませて抱きつき、キスをせがんだ。 軽く触れ合わせ笑い合う。いつもの通り。何も変わらない。 「お疲れさま。お風呂湧いてるよ」 「うん、ありがとう。これお土産ね、地酒。限定酒」 「うわぁー、嬉しい。ちょうど煮物と焼き魚だから合うかも。後で飲む?」 「そうだね、飲もう」 連れ立って廊下を進み、私はキッチンへ、彼は部屋へと入る。 ボトルを冷蔵庫に入れてまたフライパンを握った。彼の好きなほうれん草のお浸し。ほんのり甘く仕上げて味見をする。地酒にも合いそうな塩梅。 「昨夜の二次会でさ」 衣擦れの中、声だけが飛んできて、「うん」と相槌を返した。 「『松来くんの奥さんは君が出張してる時家でどうしてるの?』って聞かれて。『今夜は飲みに行ってますよ』って返したんだよ。そしたら『心配じゃない?』って」 「うん。それで?」 「少し酔ってたのもあって『ラブラブですからね』って言ったらもう冷やかされてさ。参っちゃった」 その様子がありありと想像出来て、思わず声を上げて吹き出す。 間違ってはない。何一つ。 「枯れたおじさん達にはある意味刺激が強いのかもね」 「そうだね、奥さんが家でご飯作って待ってるって人も昨日のメンツにはいなかったりしてさ」 「ええー?考えられないなぁ。私は昂くんと一緒にご飯食べてお酒飲んでお喋りしたいのに」 「でも昨日は一人で飲みに行ったんだろ?飲ん兵衛の綾音は」 スーツを脱いでワイシャツだけになった昂くんが、キッチンに立つ私を背後から抱き竦めた。
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